Essay

AIは、学習の小さな障壁を取り除くだけでも価値がある

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学習に付随する小さな手間は、時間を奪うだけではありません。手間を避けるうちに、学ぶ中身まで変わってしまうことがあります。

中学生の頃、私は英単語の読み方を適当なまま覚えていました。音声CDはあったのに、用意して、聞きたいところを探して、再生するのが面倒で、使わなかったからです。

いま、中学1年生の長男の単語テストに合わせて、AIに手伝ってもらいながら英単語のWebアプリを作っています。半年ほど続けたある日、単語を書いて覚える息子のそばで、スマホから何度も発音が聞こえてきました。それを聞いて気づいたんです。私はCDの操作を省くつもりで、単語の音に触れる機会まで一緒に省いていたのだと。

家庭学習でAIが役立つのは、子どもに合わせた問題を出すことだけでなく、こうした小さな手間を取り除くところにもあるのだと思います。

半年アプリを作ってきて、今さら「音」のよさに気づいた

長男の単語テストのたびに、テスト範囲として配られたプリントをもとに、CodexやClaude Codeで単語を覚えるための簡単なWebアプリを作っています。半年ほど、いろいろ試行錯誤してきました。

それなのに、発音が聞こえることのよさに気づいたのは、つい最近です。息子が単語を書いて覚えている間、毎回毎回、スマホから英語の音が聞こえてくる。ふと「めっちゃいいな」と思いました。半年も作ってきて今さらそこか、という感じです。

「発音を聞ける機能が付いている」と書けば、ごく普通のことです。私自身、作っている間は機能のひとつとしか見ていませんでした。でも、書いて覚えている最中に音が繰り返し耳に入っている様子を横で見ると、その意味がまったく違って見えました。息子の練習には、私の練習になかったものが入っている。

発音を聞かなくても、単語の勉強は進んでしまう

なぜ私は音を聞かなかったのか。振り返ると、面倒だったことに加えて、聞かなくても困らなかったことが大きかったと思います。

つづりと日本語の意味さえ見れば、覚える作業は進められます。テストで書くのもつづりと意味です。CDを用意する手間と比べると、音を聞くのは「やったほうがいいけれど、なくても進むこと」でした。だから、真っ先に削られた。

手間は、勉強の中から何を残して何を削るかまで決めてしまう。私の場合、削られたのが音でした。

もちろん、この光景だけで、息子がどれほど覚えやすくなったかまでは分かりません。ただ、昔の私が面倒で省いていたことが、息子の練習には最初から含まれている。その違いははっきり見えました。

こうした面倒を自分の性格の問題として片づけず、方法を考える条件にする視点は、生成AIは、自分固有の「面倒」を条件にできるでも書いています。

親の側にも、学ぶ前の手間がある

手間がかかるのは、学ぶ本人だけではありません。

次男には、漢字を覚えるプリントをよく作っています。練習する漢字が決まっていても、そのまま使えるプリントになるわけではありません。問題を書き出し、読み仮名を付け、練習できる形に整える作業が残っています。

困っているのは、何を練習すればいいか分からないことではなく、決まっている内容を練習できる形にするところです。具体的な作り方と、「判断は人が、形にする作業をAIが」という役割分担は、講談社「with class」の連載コラム生成AIで家庭学習プリントを作る方法(新しいタブで開きます)に書きました。

発音を聞くための手間は息子に、プリントを用意する手間は親にかかります。どちらも、覚えることや考えることとは別の作業です。覚えるには繰り返しが必要だし、分からない問題に向き合う時間も必要です。でも、その手前の、道具や教材を使える状態にするところまで、毎回頑張らなくていいのではないかと思っています。

AIで変わったのは、わが家に合わせて道具を作れるようになったこと

一語ずつ発音を聞ける仕組みも、漢字の練習プリントも、以前からありました。私にとってAIで変わったのは、それを家庭で必要な形に合わせられるようになったことです。

今回のテスト範囲の単語だけを覚えたい。この漢字だけを練習できるプリントが欲しい。市販の教材ではぴったり合わない小さな要望を、AIにプログラミングや整形を手伝ってもらいながら、そのまま道具にできる。AIは作る過程を助け、できあがった道具が学習を助けています。

家庭ごとの不便を、使いながら調整できる仕組みにしていく過程は、生成AIで家庭の不便を仕組みにするで詳しく書いています。また、子どものAI利用について考えたコラム(新しいタブで開きます)では、子ども自身がAIを使うだけでなく、大人がAIを使って子どものための道具を作ることも、教育でのAI活用のひとつだと書きました。

「ちょっと便利になった」で済ませていたことが、昔の自分が省いていた学びにつながっていた。学習の小さな障壁を取り除く価値は、手間の大きさだけでは測れないのだと思います。

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著者について

宮崎真理

『AI×家事』著者

神戸大学大学院で生体計測工学を専攻し、修了後はオムロン株式会社で技術職として勤務。出産を機に10年間の専業主婦生活を経て、2023年より生成AIを家事・子育てに取り入れ、暮らしの中での活用を実践している。

WOMAN AI AWARD 2026 ライフ・イノベーター賞受賞。講談社「with class」でコラムを連載するほか、テレビ出演、雑誌・Webでの執筆・監修などを行う。

3兄弟の母。1000日以上にわたる生成AIの実践経験をもとに、理系出身・元専業主婦の視点から、家庭という最もテクノロジーが遅れた場所を、生活者自身がアップデートしていく可能性を発信している。

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